蜜は夜よりかぎりなく (角川ルビー文庫 83-23)
崎谷 はるひ
白鷺シリーズの短編集。志澤×藍編、弥刀×朋樹編、
そして藍の父・衛の過去話の3本立て。
「蜜は夜よりかぎりなく」(志澤×藍)
「平行線〜」に出てくる藍が、いきなり大人っぽくなっていて、
いったい何があったのー?と思っていたので、その辺のいきさつが読めて、
すっきりしました。
山奥の閉鎖された環境からいきなり街に出てきて、ロクに恋愛経験もないままに
志澤との恋に堕ちた藍。志澤はいまでもそのことを気に病んでいて、
藍が女の子と歩いている姿を見ただけで、自分は身を引いたほうがいいんじゃないかとか、グルグル悩んでしまう。
けれども、そんな内面の葛藤を表情にも態度にも出さないどころか、
仕事が忙しいといって家に帰らなくなっちゃうんだから、
妻としては「いったいあの人になにが?」って思っちゃいますよね。
そう、藍が志澤に話し合いの場を持つよう詰め寄るシーンとか、
弥刀と知靖の過去を知っても動じた様子がないとことか、
まさに古式ゆかしき出来た妻!って感じで。
20代にしてこの腹の括りようはすごいと思う反面、
ちょっと出来すぎな感も否めなかったのでした。
あ、でも、藍はもともと変人なおじいちゃんの面倒を見てきた?わけだから、
この桁違いに老成された感じはありなのかも?
ともあれ、お幸せにー(笑)。
「双曲線上のリアリズム」(弥刀×朋樹)
朋樹は、研修中の警察官として短期の交番勤務を命じられる。
市井の人々と関わることで、己の中の眠っていた感受性を意識した朋樹は、
そのことで感受性の塊のような弥刀の存在を再認識する。
この二人も、結局は割れ鍋に綴じ蓋カップルなのですよね。
お互いの足りないとこを補いあって、
本能レベルでは十分に惹かれあっているのに、
朋樹の感情面の未分化っぷりが半端ないので、
なかなか前に進めないってだけで。
そして、朋樹は言葉にならない感情に突き動かされて行動する子なので、
お話が朋樹視点になったところで、その感情面の不足分が補われるわけでもないというこのもどかしさ・・!
きっとこれこそがこのお話の肝なんだろうなぁ。
とはいえ、おそらく感情面で朋樹が弥刀に追いつく日は、
永遠に来ないと思われます・・。
リバにはいつなってもおかしくないけどね(笑)。
「逆理-Paradox-」(福田x藍の父・衛)
作者さんのあとがきの言葉を借りると、
衛の二十年が断層構造でざっくりと書かれているため、
肝心な部分が読み足りないもどかしさはありました。
けれども、これをガッツリ読まされるとなると、
それはそれで胸やけ起こしそうではありますが・・。
隔絶された山奥で閉じた世界にいた衛を連れだした福田は、
己の理想の具現化を求めて、衛に投資する。
けれども、一緒に暮らすうちにだんだんと暖かい感情が芽生えてきて・・。
愛とか恋といった生ぬるい感情の先には、至高とする芸術は生まれないと考える福田にしてみれば、衛に心を捕らわれることはすなわち
自分を否定することだったんだろうなーと。
だから、逆にその気持ち自体を壊すことで自己矛盾に折り合いをつけて、
プライドを保とうとするんだけど、
聡い衛はその福田の内心の揺らぎを悟りつつも、その行動を肯定しちゃったもんだから、話はさらにややこしくなるわけで。
結局は、福田も衛も、相手に理想を押し付けて、
お互いを見ていなかったんじゃないかなぁと思います。
理想と現実のギャップが埋められなくて、
どんどん溝は深まるのに、相手に対する執着や情が邪魔して
離れられなくて・・。
最終的に、どちらかが手を離さない限り、行きつく先は破滅だったと思えば、
こういう終わり方で良かった・・のかな?
いや、衛は良かったかもしれないけど、福田は救われないですよね〜やっぱり。
ま、だからこそ本編の福田は、あぁいう描かれ方になったのでしょうけども、
この後味の悪さはいかんともしがたい(笑)。
でも、これを読んで福田の印象はちょっと変わりました。
救いはないけど、読めてよかった〜という読後の充足感はあるかな。